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Y’s twin社 亀山 千慧 氏『北の大地から、「業界への想い」と「地域医療への挑戦」』前編

Part①『業界へ感じること』 
「競争の激化」から「人に優しくない業界」に。(以下Q1~Q7)
Part②『創業当時の苦難と葛藤』 
数々の「教訓」から得た、「価値観の尊重」と「理念浸透の重要性」(以下Q8~Q11)

Part①『業界へ感じること』 
「競争の激化」から「人に優しくない業界」に。

Q1:単刀直入にお聞きしたいのですが、今、亀山先生は業界をどうみていますか?

A:そうですね、実際に「自分の力で業界の何かを変えようか」というと、今はそこまで大きなものはまだないんです。ただ、「小さな成功」つまり具体的にいえば、『北海道で』や『自分の会社を』など、そういったところに取り組んで、自分が目指していることを続けることが、結果として業界にプラスになるという考えがあるということが私の大前提です。そのうえで今感じているのは、正直な感情でいえば『良くも、悪くも、競争の激化しすぎているせいで、「人に優しくない業界」になっている感覚がありますね・・・。


Q2:「人にやさしくない」の『人』とは、患者さんやクライアントを指しますか?それとも業界の仲間にですか?

A:そうですね、両方ですね。
 例えば、業界の人どうしでの「否定的・批判的な側面」の発言をよく耳にしますよね。個人的に感じるのは「自分の居心地が良い、自分が誇り思える業界、とは思いづらい」とは感じます。
やはり、今後新しくこの業界に入ってくる若い方々や、自分たちの子供世代が業界を引っ張るときに、「批判し合う文化」あった場合、個人的には良い未来が待っているとは思えないです。
 よくあるケースで言うと、「大手のやり方に対して、小規模な企業や個人の方がそれを攻撃する」逆に、「大手が個人院に対して攻撃をする、批判的な意見をいう」とか、『競争』自体は、業界が発展していくうえで外せない部分なので、否定的な解釈は全くないですけど、これは(業界の現状は)世界中で戦争が起きていることとそんなに違いはないのかな?と感じます。「自分たちの価値観を押し付けてしまったり、自分たちがやっていることが正しい。」という価値観は、ある種、言葉での「口撃」で誰かを傷つける行動であったりすると思うんです。 戦争は言い過ぎかもしれませんが、それに近いとは思いますし、「配慮のある前向きな批判」であれば悪いことではないですが、ただ相手を否定して批判をするスタイルは、やはり戦争に近しい心理状態ではありますよね。

Q3:先生が仰っていることには、賛同・共感する方は多いと思うのですが、そんな方々も実は、批判・否定をしているなんて言うケースをよく私も見受ける印象です。先生はどのように感じていますか?

A:今までの出会いの振り返ると、やはり私のような考えをもつ方のほうが少ないように思えますね。
でも、結局目指しているゴールは同じなはずなんです。。。
企業という軸でいえば、「ビジョンを達成する」というところで、そこには資本力は必要になりますし、経営していくうえで必要なことは出てくると思うんですよ。そして(ビジョンに)向かっていく手段が企業によっても違います。

ただ、そのビジョン達成のために「手段を択ばない」というところが多くあるように感じます。これは個人的には好きな考え方ではないです。もちろん、正解や不正解のない話なので、各社の取り組みに対しては理解していますし批判的な意味ではないです。単純に私がやりたい形ではないということですね。これらの所感が「「業界」の人に対して優しくない」。と感じている理由になりますね。

Q4:先生は先ほどのお話の中で、「人に優しくない」という対象が、同業者だけではなく、患者さんにも優しくないと仰っていましたが、その辺りはどのような側面から感じていますか?

A:そうですね、
一つは、地方に目を向けてみると、あまり地方には(多店舗)展開をされてないですよね。言葉を悪く言うと、『あまりお金にならない人の少ないエリア』なので、当然、経営側面的にそのようなエリアには展開しないわけですよね。そうなると、人が多いエリアには、病院や接骨院など、医療を受けられる場所はどんどん増えていき、逆に(人口が)少ないエリアには、医療機関が減っていく。そして、雇用も生まれず、「(地元に)残りたい!」とも思いづらくなる。その地から人が離れるという「負の連鎖」が発生するんです。
地方の方々は医療を受けたくても受けられない。こういった環境をつくってしまっていることが、「優しくない」のだとも思います。

もう一つは、「受診の選択肢」ですね。企業が利益を生むためのメニューはどうしても存在すると思うんです。もちろんこれは患者さんにとって悪いものを提供しているわけでは当然ないので、そこに否定的な意見はないんですが、ただ、すべての患者さんが同じ症状でなく、同じ人間ではないので、『毎日同じ治療、違う人にも同じ治療』というのは、個人的には考えにくいです。一方で、それらを提案することは、患者さんが納得して購入して、困りごとが解決されたのであれば、これは別に悪いことではないと思いますが、そうでないケースもでてきていると感じています。

このように選択肢が決まっている状況をつくりだしていることも、「優しくない」という部分ではないでしょうか。 ビジョンは各社が「健康」や「未来」、「患者様のために」など、色々あるとは思うんですけど、それに対して似合っているかというと、そうではないところもあるんじゃないかなと、ちょっと外からみるとそう感じる部分がありますよね。


Q5:「提案」がこちらの要求側面が強すぎるということですね?

A:そうなんです。
その人(患者様)にとってベストのものか?というところですよね。私も小さいながら企業の経営をしているので、当然、経営的に推進をしなければならないという場面は、少なからずあります。ただし、あまりにもこちら側に「利」があるというか、本当の意味での「医療」や、「困りごと」を解決しよう。という側面には直結していないのでないかと個人的には感じています。
特に、企業からのリクエストで、若い施術者が個人生産性や利益だけを生み出すために、決められているトークを話すだけ、みたいになってしまうと、これも「優しくない」に当てはまりますよね。場合によってはこれだけで固めてしまうことは、スタッフ・従業員にも「優しくない」ですよね。

Q6:これらも踏まえると、この業界の一人ひとりが現実を見つめなければならない点はどこにあると思いますか?

A:そもそも、柔道整復師や治療家云々ではなく、人として当たり前の「感謝をする」とかという気持ちを持ったり、困った人がいたら手を差し伸べるとか、ごくごく当たり前のことが大前提で必要だということです。それがあって初めて『治療家』という観点でいうならば、「仕事をするうえで利益を追うということは外せないので、真剣に考える必要がある」ということ。そして、であればもっと「本当に困っていること」に焦点を当てて、利益を生み出せる方法を真剣に考える必要があるのでないかな。というふうに思います。
利益を生み出さない「ただ治療の技術だけを!」というのは、これは仕事とはいえないです。逆に「なんでもかんでも利益を!」だけでは、少し無理やりすぎるとも思うんです。それを両輪で回していくために、必要なことを考えると、知識と技術を高め、自分たちが提供していることの付加価値を高めていき、結果的に提供する金額というものがそれに似合った金額になっていく。この連鎖で経営は本来成り立つはずなんです。人間力があって、「この先生なら治してくれるだろう!」という期待感を抱かせるだけの知識や技術がある。
この両方があれば、例え1時間1万円でも抵抗はないでしょうし、支払っていただけると思います。
もっと真剣に「治療家ってどんな仕事なんだろう」というところを改めて考える必要があるのかなと思います。

Q7:先生が仰っていた「優しくない業界」。なぜこうなってしまったと考えていますか?

A:やはり人格や人間力部分が理由ですよね。
『競争』はあっていいと思うんです。競争がなければ発展もしませんし。
例えば、プロ野球で巨人と阪神の選手たちが、互いにライバルとして個人・チーム力を高めていき、日本一を目指していく。そのような背景で巨人・阪神の「伝統の一戦」ともなれば、それはすごく盛り上がるでしょうし、ファンとしても応援したくなる。そして、勝ったほうが負けたほうを労って、負けたほうが健闘を祈る。という姿をみれば、観ているほうも楽しいとは思います。

しかし、選手同士が互いに批判し合うことをみていれば、人気も出てこないと思います。あくまで(選手たちは)野球が好きで、好きなものが仕事になって、ファンや子供たちにとって「憧れ」のような存在で、華々しい世界で活躍して、またそこで「切磋琢磨」して上に上がっていく。それを観ているから、私たちも応援したくなるわけで、「実はSNS上で他球団の選手を攻撃し合っている」のを目の当たりしたら、その選手は応援されなくなると思うんです。

しかしこれが、私たちの業界では、当たり前のように(批判や攻撃が)散見されて、やはりここは、人間力とかプロ意識とかの部分ですし、通常であれば、お互いを認めて、「自分たちの手段はこうだけど、あなたたちの手段・方法も理解はできる。でも、ウチでやっているこういう取り組みもいいよ!」と、それを共有しながら、切磋琢磨していくという流れのほうが、やはり業界としては伸びるはずです。しかし、競争というところのフォーカスが濃すぎていて、「他社を蹴落としてでも自分たちが勝つ」というのは感じが強いですよね。


Part②『創業当時の苦難と葛藤』 
数々の「教訓」から得た、「価値観の尊重」と「理念浸透の重要性」

Q8:今従業員は何名ほどいらっしゃいますか?

20名です。大手さんに比べると小さい会社ではありますけど、北海道に関しては多店舗展開しているところは多くはないので、比較的、道内企業の中では多くいる方かなとは思います。

Q9:前回、亀山先生にお話を伺った際に、離職が多かった時期があったと伺いましたが、当初はどのような部分に苦労されましたか?

A:そうですね、まず、私が(メンタリティが)「経営者」ではなかったから起きた離職が多かった印象です。
私自身を分析しても、今も昔も、優しいか厳しいかでいえば、私は「優しい」方なんですね。なので、私のことが嫌で辞めるとか、何かされたから辞めたとかという前例はないです。ただ、開業して当初というのは、まあ自信満々に開業しているんですね(笑)。

前職は道内最大手のグループ院にNo2として勤務していて、それなりの経験をさせてもらい、まあ自信をもっていたわけですね。複数店舗の管理をしながら、個人としてもそれなりの売上を出していて、ある程度のマネジメントスキルをもっていたと。そう思い込んでいたんですね。
ただ、“経営”をしていたわけではなく、“運営”をしていたにすぎないことに(開業当時は)気付いていなかったんです。

30歳で開業をし、最初から3名を雇用して、計4名でスタートしました。全員中途採用で、経験も豊富だったので、絶対にうまくいくイメージしかなかったんですね。ただそこで、始めてから気が付いたんです。「集客」できないことに。。。(笑)当たり前のように前職の会社は多くの新患の集客をしていたんですね。

ただ、自分がやってみると、待てども暮らせど(新患が)来ない・・・。そもそものマーケテイングといいますか、立地だとか、ターゲットだとか、自分たちの院のコンセプトは何を売りにして、どのように提供していくのかですとか。そのようなことも考えてもいなかったですし、ホームページに関しても、安くできるところで作ってもらって、SEOとかMEOとかリスティング広告とかも、なんかどこかで聞いたことある程度の知識から始めているんですね。(笑)

結果、なかなかうまく行かかない。この時期はやはり苦労しました。。。
そして、徐々に軌道に乗り始めて、2.3院目に関しては、大手グループ院さんから、苫小牧と室蘭の店舗を買い取らせていただいたんですね。このタイミングで法人登記をしました。登記した背景も、道内に良い雇用条件の企業がなく、道内の学生も道外へでていってしまうことが多かったんです。道内に雇用条件が良く、知識や技術が学べる企業があれば、道外に出る必要はないんじゃないか。そう考えたのが契機です。このタイミングで一気に人が増えたんですね。経営者としての勉強をしてもいないのに法人化して人が増えたんです。(笑)

いざやってみたら、遠隔地の店舗の管理も、自院の店舗の管理をしながらとなると、目が行き届かなくなっていました。そして、徐々に管理者に任せきりになってしまっていたんです。私があまり関われずに。
「亀山先生は、大変な時に言葉こそ掛けてくれはするけど、直接手伝ってくれるわけではない。」というような、私には遠慮して直接言えないけど、悩んでいたスタッフが一定数でてきていました。
その最中、創業から勤めていたスタッフが「亀山先生は自分の方を向いてくれない。」の言葉を残して結果的に退職をしたんです。この時期に将来を期待していたもう1名も実は同時に離職したんですね。。。そして、このタイミングでさらにですね、元々開業志向だった2名のスタッフも、「開業をしたい」という打診があったんです。なので、合計4名離職したわけですが、この4名は比較的社歴が長かったメンバーだったんです。でも店舗は3店舗あって、この時期に「本当に足りない、どうしよう。」となりました。(笑)

そんな状況から新しいメンバーも入りながら、なんとか踏ん張って、ここ5年間では格段に離職率が改善されました。具体的な数で言うと、5年間で1名離職にはなるんですけど、やはり悔しいですし、できたことはあったと感じますね。。。


Q10:その様々な悔しさも残る「離職」の一つ一つを、先生は今どのように教訓として修めていますか?

A:離職する理由は、私はほぼ100%で「人」だと思っています。

人の悩みがほとんどの離職理由で、中にはもっと「違う技術を学びたい」とか、「会社のシステム上、自己実現が成せない」などもあるとは思うんですけど、多くは、人の悩みなのかなと思っています。自分を理解して欲しいけどされなかったり、誰かと合わなかったりだとか、そういったところからだと思っているんです。なので、どれだけ一人ひとりが、全員が同じ感覚で仕事に向き合えるかが重要だと考えています。

それが、プロとしてとういう側面だけではなく、そもそも人として、配慮ですとか、患者様に限らず、従業員同士のホスピタリティや、価値観を否定せずに理解をしようという力をどれだけ高めていけるか。これが重要だと思っています。

結論まとめると、私の中では、一つ一つの教訓は、「同じことを繰り返さない。こういう時には、こう解決しよう」というものです。全体の教訓でいうと、「お互いの価値観を認め合いながら、理解して尊重し、協力し合う体制を創っていく。そして、やろうとしていることをしっかりとやっていく。」このことが離職を防いでいくことに繋がっていくと考えています。

Q11:企業秘密等もあるかと思いますので、可能な限りで構わないのですが、離職是正や理念浸透を図るうえで、イベントや企画設計として取り組まれていることはありますか?

A:ちなみにうちは、企業秘密は基本ないですよ。個人情報の漏洩等でない限り。(笑)
先程の話もそうですが、「戦う競争」ではなく「共に創り上げる『共創』」だと思っているので、特に秘密というものはないです。(笑)

そうですね、直接結びついているかはわかりませんが、取り組みとしては、週に1回、私自ら直接勉強会として、「考え方」「理念」「人として」というような話をやっています。
これに関しては、例えば『「感謝」とは何か』というテーマを設定して、「感謝はどんなものか。何かをもらって“ありがとうございます”という言葉を返すこと自体は”感謝“と呼べるのか。お礼をいうだけでは“感謝”ではなく、ただの“挨拶”に過ぎない。与えられているものに対して当たり前にならず、ありがたさに気付き、掛ける言葉が初めて“感謝”」と呼べる。」なんて話をしたりもします。

その他は、月1回「院長とスタッフ間の面談」、3か月1回「マネージャーとスタッフ間の面談」、半年に1回「私とスタッフの面談」を実施して、「今悩んでいることはないか。」や、「自分が目指している目標に対して現地点との確認」をして、その差を埋める行動ができているかどうか。そういったところを擦り合わせていく。ということは会社の取り組みとして行っています。

これはちなみにですね、前職の株式会社ワイズケアの山根(現同社会長)が、あの規模で、年に1回、全国にある店舗に直接出向いて、一人ひとりに山根代表が個人面談をしているんですよね。所属当時でも100人以上スタッフはいて北は北海道、南は沖縄まで、全員と必ず年1回は個人面談をするんですよね。山根のその姿をみて、これはすごく大切なことだなと感じて、定期的な個人面談の大切さを学びました。


※インタビュー後編に関しては1月中旬にリリース予定です。
後編もお楽しみに。

●論者


亀山 千慧 氏(かめやま ちさと)
1985年12月 北海道江別市生まれ
株式会社Y’s twin 代表取締役
鍼灸学修士・鍼灸師・柔道整復師

【学歴】
札幌青葉鍼灸柔整専門学校
鍼灸学科昼間部 平成19年3月卒業
平成19年4月
札幌青葉鍼灸柔整専門学校
柔道整復学科夜間部 平成22年3月卒業
令和2年4月
明治国際医療大学大学院鍼灸学研究科
鍼灸学専攻 鍼灸基礎医学分野 修士課程 令和4年3月修了
令和6年4月(進学予定)
弘前大学大学院保健学研究科
保健学専攻 総合リハビリテーション領域 博士後期課程
【職歴】
平成21年5月
道内を拠点とする企業を経て、
道内最大グループ院に転職。No.2としてマネージャー職を歴任。
平成27年2月
株式会社ワイズケア入社
北海道ブロック長とFC店のSV職を歴任。
平成28年5月
てて整骨院二十四軒店 独立開院
平成29年5月〜
株式会社Y’s twin設立

令和4年4月〜
札幌青葉鍼灸柔整専門学校
鍼灸学科 非常勤講師
令和5年5月〜
札幌スポーツ&メディカル専門学校
鍼灸学科 非常勤講師


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