はじめに
近年、有酸素運動だけでなくレジスタンストレーニングが精神的健康の改善に寄与するという知見が蓄積されつつある。本論文は、18〜25歳の若年成人70名(男女各35名)を対象に、2ヶ月間のウエイトレジスタンス運動がうつ・不安・ストレスに与える影響を縦断的に検証した研究である。パキスタン・ラワルピンディのジムで実施され、運動開始前と2ヶ月後にDASS-21(Depression Anxiety Stress Scale)を用いて評価した。臨床現場でクライアントに運動療法を提案するアスレチックトレーナーや理学療法士にとって、エビデンスに基づく介入設計の参考となる内容だ。
ポイント
対応のあるt検定の結果、うつ・不安・ストレスのすべてで統計的に有意な改善が認められた。うつ得点は介入前18.03(SD6.16)から介入後6.69(SD4.07)へ11.34ポイント低下し、効果量はCohen’s d=2.17という非常に大きな値を示した。不安得点は6.97(SD5.01)から2.37(SD2.11)へ4.60ポイント低下(d=1.20)、ストレス得点は13.83(SD4.59)から5.60(SD2.56)へ8.23ポイント低下(d=2.21)という結果だった。いずれもp<.001であり、有酸素運動を併用しないレジスタンストレーニング単独でも精神的健康の改善に寄与する可能性が示された点が、本研究の特徴である。
心理指標の変化とその意味
DASS-21の重症度基準に照らすと、介入前のうつ得点18.03は「中等度」に分類される水準だったが、介入後の6.69は「正常範囲」まで改善している。不安とストレスは介入前の時点では「正常範囲」であったものの、軽度症状の閾値に近く、介入後にはさらに低い水準へ移行した。特にうつとストレスの効果量が2.0を超える点は、臨床的にも極めて大きな変化と解釈できる。先行研究(Singh et al., 2005; Kovacevic et al., 2018)でも高強度の漸進的レジスタンストレーニングが睡眠の質や自己効力感の向上に関連することが報告されており、本研究の結果はこれらの知見と整合する。運動処方を検討する現場では、8週間程度の継続的な負荷設定が心理的アウトカムに影響しうる期間として参考になる。
性差による反応の違い
介入前の時点で、女性は男性よりも不安(d=0.49)とうつ(d=0.63)の得点が有意に高かった。しかし介入後、不安の性差は統計的に消失し、うつの性差もd=0.55へと縮小した。一方でストレス得点には介入前後を通じて性差は認められなかった。この結果は、女性の方が運動によるメンタルヘルス改善効果をより大きく得ている可能性を示唆している。著者らは、これが日常的な身体活動量の性差に起因する可能性を考察しており、運動習慣の少ない層ほど介入効果が大きく現れるという臨床的示唆につながる。トレーナーがトレーニングプログラムを設計する際、性別による初期メンタルヘルス状態の違いを踏まえた個別対応の重要性を示すデータといえる。
なお、本研究はコンビニエンスサンプリングによる小規模サンプル(N=70)であり、対照群を設けていない点には留意が必要である。一般化には限界があるものの、レジスタンストレーニング単独の心理的効果を検証した数少ない研究として、臨床実践への応用価値は高い。
出典:Rehman, M., & Shabbir, I. (2025). Building Mental Resilience: The Impact of Weight Resistance Training on Young Adult Wellbeing. *Qlantic Journal of Social Sciences*, 6(3), 249-255. DOI: 10.55737/qjss.vi-iii.25403
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