はじめに
朝晩の冷え込みが強まるこの時期、「咳が出る」「風邪をひきやすい」という訴えが増える。冷たい空気を吸うことは、呼吸器にどんな影響を与えるのか。本記事では、冷気と呼吸・咳・感染症の関係を、3本の研究を中心に整理する。
冷たい空気を吸うと、気道に何が起きるのか
鼻から吸った冷気で気道抵抗が上がる
FontanariらがJournal of Applied Physiology(1996年)に発表した研究は、健常者が冷たく乾いた空気や乾燥した空気、湿った空気を鼻から吸ったときの気道抵抗(Rint)の変化を調べた。
| 鼻から吸入した空気 | 気道抵抗の変化 |
|---|---|
| 冷たく乾いた空気(−4℃) | 17%上昇 |
| 乾燥した空気のみ | 21%上昇 |
| 冷たく乾いた空気(−10℃) | 42%上昇 |
| 湿った室内の空気 | 変化なし |
※同研究の結果より作成。モバイル表示対応
「冷たさ」だけでなく「乾燥」も要因
湿った空気では変化がなく、乾燥した空気だけでも上昇した点が重要だ。また、鼻の麻酔や抗コリン薬の吸入で冷気への反応は見られなくなり、鼻からの神経反射が関わると考えられている。口から吸った場合は、乾燥した空気や冷たく乾いた空気でも気道抵抗は変わらなかった。
冷気と感染症―鼻の防御機能への影響
粘液線毛クリアランスが低下する
EcclesがRhinology誌(2015年)に発表したレビューは、冷気を吸うと鼻腔が冷やされ、粘液線毛クリアランスの低下と白血球の貪食の抑制が起こり、感染に対する防御が弱まる可能性を整理している。冷気暴露と上気道感染の関連を支持する研究はあるものの、この分野には議論も残されている。
2026年の総説が示す「入り口」仮説
Gozhenkoらの総説(Pedagogy and Psychology of Sport、2026年)は、冷気が鼻粘膜の温度を15〜20℃に下げ、線毛の動きを約半分に減らすと整理している。粘液の輸送に要する時間は、通常の10〜20分から60分超まで延びるという。さらに、急性寒冷呼吸器症候群という概念を提案し、冷えが「入り口」となってウイルスへの感受性を高める可能性を論じた。ただし、これは新しい用語を提案するナラティブレビューであり、診断基準として確立したものではない点に注意したい。
咳とスポーツ―冷気下のトレーニングで気をつけたいこと
冬のアスリートに多い咳
エリート選手を対象とした研究(PMC掲載)によれば、冷気下でトレーニングする選手は、冬に咳が悪化したと訴えやすい。一方で、多くの選手では気管支収縮や気道の炎症、咳反射の過敏とは関連がみられなかった。
喘息や気道過敏性への配慮
冷気が呼吸器に与える影響をまとめたレビュー(PMC掲載)では、冬季競技の選手で気道過敏性、喘息、慢性の咳が多いことが述べられている。冷気下の運動は、喘息のある人では気管支収縮を引き起こしうる。
現場でできる予防対策
環境を整える
政府広報オンラインは、空気が乾燥するとのどの粘膜の防御機能が低下するとし、室内では加湿器などで湿度50〜60%を保つことを勧めている。トレーナールームやリハビリ室でも、換気とあわせて意識したい。
呼吸経路と冷気への対応
Fontanariらの結果から、鼻呼吸か口呼吸かで気道の反応は異なる。一律に「鼻呼吸がよい」とは言い切れないため、個々の症状に合わせた対応が必要だ。
感染対策の基本を徹底する
厚生労働省の急性呼吸器感染症(ARI)総合対策は、手洗いとマスク着用を含む咳エチケットが有効だとしている。厚生労働省の「3つの正しい咳エチケット」もあわせて参照してほしい。
おわりに
体調を崩しやすい季節だからこそ、まずは迎え入れる環境を見直したい。施設やチームでは、換気、手洗いの場所、体調不良者への声かけルールを確認しておきたい。そのうえで、患者様や選手と触れ合う中で、冷え込む朝晩の過ごし方や手洗いの習慣を一言添えるだけでも、予防への意識は変わる。咳が長引く、息苦しさや喘鳴がある、発熱を伴うといった場合は、医療機関の受診を勧めることも大切だ。
予防の大切さを発信するスピーカーとなることも、健康に従事する私たちの重要な役割の一つである。ここで紹介した内容を、受け入れ環境の予防対策や日々のサポートにぜひ活かしてほしい。
参考情報
- Fontanari P et al. “Changes in airway resistance induced by nasal inhalation of cold dry, dry, or moist air in normal individuals.” J Appl Physiol, 1996.
- Eccles R. “Exposure to cold and acute upper respiratory tract infection.” Rhinology, 2015.
- Gozhenko AI et al. “Acute Cold Respiratory Syndrome: A Narrative Review.” Pedagogy and Psychology of Sport, 2026.
- Seasonal variations of cough reflex sensitivity in elite athletes training in cold air environment(PMC)
- The impact of cold on the respiratory tract and its consequences to respiratory health(PMC)
- 政府広報オンライン「インフルエンザの感染を防ぐポイント」
- 厚生労働省「今冬の急性呼吸器感染症(ARI)総合対策」
- 厚生労働省「3つの正しい咳エチケット」
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著者:ミラウェルの中の人
mirawell メディアディレクター
治療家・トレーナーのためのセミナー情報サイト
ミラウェルのメディアディレクター
これまで、約150を超えるセミナーコンテンツ(協会等の外部主催含む)の
プロデュース/コンテンツ制作/集客/ディレクションを担当。
<保有資格>
・柔道整復師
・NSCA-CPT
・JADP認定スポーツメンタルトレーナー
・認定フェムテックエキスパート (日本フェムテック協会認定資格2級)
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