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デジタル化時代の視覚機能の低下―医療従事者・トレーナーが知るべき現状とサポートの可能性

はじめに

スマートフォン、タブレット、パソコンが生活に欠かせないツールとなった現代社会。私たちは気づかないうちに、1日の大半をデジタルデバイスの画面を見て過ごしている。モバイル社会研究所が2025年2月に公表した調査によれば、10代・20代のインターネット利用時間は1日平均7.3〜7.7時間にのぼる。さらに学生に至っては平均7.8時間と、起きている時間の半分以上をデジタル画面と向き合っている計算になる。

このデジタル化の進展は利便性をもたらす一方で、視覚機能の低下という深刻な健康課題を生み出している。柔道整復師、鍼灸師、理学療法士、スポーツトレーナー、セラピストとして、私たちはこの問題にどう向き合うべきか。本記事では、最新データをもとに視覚機能低下の実態と、医療従事者としてできるサポートについて考察する。


デジタル化がもたらす視覚機能への影響

長時間のデジタルデバイス使用の実態

モバイル社会研究所の2024年調査によれば、職業別のインターネット利用時間は学生が最長で7.8時間(仕事・学校での利用2.8時間、私用等5時間)となっている。さらに注目すべきは、私用でのインターネット利用が学生で5時間、無職で4.2時間と長時間化している点である。

年代別では、10代女性7.7時間、20代男性7.7時間、10代男性7.6時間、20代女性7.3時間と、若年層のデジタルデバイス依存が顕著となっている。この傾向は今後さらに加速すると予測される。

VDT症候群の蔓延

長時間のデジタルデバイス使用によって引き起こされる健康障害は「VDT症候群」(Visual Display Terminal症候群)と呼ばれる。厚生労働省が2008年に実施した「技術革新と労働に関する実態調査」によれば、VDT作業で身体的な疲労や症状を感じている労働者の割合は68.6%にのぼり、症状別では「目の疲れ・痛み」が90.8%と最も多く、次いで「首、肩のこり・痛み」74.8%となっている。

VDT症候群の主な症状(モバイルファーストインデックス表)

項目内容
症状カテゴリ目の症状
主な症状眼精疲労、ドライアイ、視力低下、充血
発生率90.8%
項目内容
症状カテゴリ身体の症状
主な症状首・肩のこり、腰痛、背中の痛み
発生率74.8%
項目内容
症状カテゴリ心の症状
主な症状イライラ、抑うつ、不眠
発生率34.6%

出典:厚生労働省「技術革新と労働に関する実態調査」(2008年)

視覚機能低下のメカニズム

デジタル画面を長時間見続けることで、以下のような視覚機能の低下が起こる:

  1. 毛様体筋の過緊張:近距離のピント調節を担う毛様体筋が緊張し続けることで、眼精疲労や調節機能低下が生じる
  2. 瞬目(まばたき)回数の減少:画面に集中するとまばたきが通常の3分の1程度に減少し、ドライアイを引き起こす
  3. ブルーライトの影響:デジタルデバイスから発せられるブルーライトが、網膜や水晶体にダメージを与える可能性がある

VDT症候群が引き起こす全身への影響

眼精疲労から全身症状へ

視覚機能の低下は、単に「目が疲れる」だけの問題ではない。厚生労働省のガイドラインでも指摘されているように、VDT症候群は目、身体、心の3つの側面に影響を及ぼす。

目の症状が悪化すると、頭痛や吐き気、めまい、耳鳴りといった全身症状に発展する。さらに、長時間同じ姿勢でデジタルデバイスを使用することで、首や肩の筋肉が緊張状態に陥り、慢性的な肩こりや腰痛を引き起こす。

精神面への影響

VDT症候群の特徴の一つは、精神面への影響である。調査によれば、VDT作業に対してストレスを感じている労働者は34.6%に達する。イライラ、不安感、抑うつ状態、不眠といった症状は、仕事や生活の質を大きく低下させる要因となる。

特に重要なのは、これらの症状が相互に関連し、悪循環を生み出すという点である。目の疲れが首や肩のこりを引き起こし、それがストレスとなって精神的な不調を招き、さらに目の症状を悪化させるという連鎖が起こる。


国のガイドラインと企業の対応

厚生労働省のVDT作業ガイドライン

厚生労働省は2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、2021年12月に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」として改正した。

ガイドラインでは、以下の作業時間管理が推奨されている:

  • 1連続作業時間は1時間を超えないこと
  • 連続作業と連続作業の間に10〜15分の作業休止時間を設けること
  • 連続作業時間内において1〜2回程度の小休止を設けること

しかし、実際の職場でこれらが遵守されているケースは少なく、VDT健診の受診率も約12%と低迷している。

企業を含む社会的な認識不足

VDT症候群が社会問題化しているにもかかわらず、社会的な認識は依然として低い。多くの職場では適切な作業環境の整備や定期的な健康診断が実施されておらず、従業員は自己判断で対処せざるを得ない状況にある。


若年層に広がる「スマホ老眼」

アイフレイルのリスク

近年、若年層の間で「スマホ老眼」と呼ばれる現象が増加している。これは、長時間のスマートフォン使用により、40代以降に起こるはずの老眼のような症状が20〜30代で現れるものである。

さらに深刻なのは、デジタル機器の長時間使用が「アイフレイル」(加齢による視機能の衰え)を加速させる可能性がある点である。日本眼科啓発会議によれば、アイフレイルは視力低下だけでなく、生活の質(QOL)の低下や認知機能の低下にもつながる。

10代・20代の深刻な実態

モバイル社会研究所の調査が示すように、10代・20代のインターネット利用時間は7.3〜7.7時間と極めて長い。この世代が30代、40代になったとき、どのような視覚機能の問題に直面するかは予測が難しいが、現在の使用状況を考えると深刻な健康課題となる可能性が高い。


医療従事者としてできるサポート

視覚機能低下の早期発見

柔道整復師、鍼灸師、理学療法士、スポーツトレーナー、セラピストは、患者・クライアントの身体全体を診る立場にあるからこそ、首や肩のこり、頭痛、姿勢の悪化といった症状の背後に、視覚機能の低下が隠れている可能性を常に意識することが重要である。

問診の際には、以下のような質問を加えることで、
VDT症候群の可能性を早期に発見できる:

  • 1日にどれくらいデジタルデバイスを使用しているか
  • 目の疲れや乾燥を感じることはあるか
  • 画面を見た後、遠くがぼやけることはあるか
  • 頭痛や肩こりの悪化がデバイス使用と関連しているか

姿勢改善と筋緊張の緩和

VDT症候群の身体症状に対しては、私たちの専門性を活かした直接的な介入が可能である。

  • 姿勢指導:適切なデスクワークの姿勢、スマートフォンの持ち方を指導
  • 筋緊張の緩和:首、肩、背中の筋肉の緊張を手技療法や鍼灸で緩和
  • ストレッチ指導:眼精疲労緩和のための目の周りのストレッチ、首や肩のセルフケア方法の指導
  • 運動療法:姿勢保持筋の強化、全身の血流改善

生活習慣の改善支援

視覚機能の低下を防ぐには、デジタルデバイスとの付き合い方を見直すことが不可欠である。医療従事者として、以下のような生活習慣の改善を支援できる:

  • 作業時間管理:1時間ごとに10〜15分の休憩を取る習慣づけ
  • 目の休息法:20-20-20ルール(20分ごとに20フィート〈約6m〉先を20秒見る)の実践
  • 環境調整:照明、画面の高さ、椅子の高さなどの適切な設定
  • 栄養指導:目の健康に良いビタミンA、C、E、ルテインなどの摂取推奨

多職種連携による包括的ケア

視覚機能の低下が疑われる場合は、眼科医への受診勧奨が重要である。また、重度のVDT症候群では産業医や心療内科との連携も必要となるからこそ、患者・クライアントを適切な専門家につなぐ役割もしっかりと担っていきたい立場である。


おわりに:未然に防ぎ、早期改善へアシストするために

デジタル化が加速する現代社会において、視覚機能の低下は避けられない課題のように見える。10代・20代が1日平均7時間以上もデジタル画面と向き合う現実を前に、
私たち医療従事者・トレーナーとして何ができるのだろうか。

答えは、「早期発見」と「予防的介入」にある。VDT症候群の症状として現れる首や肩のこり、頭痛、姿勢の悪化は、私たちが日常的に接する症状である。これらの背後に視覚機能の低下が隠れていることを認識し、適切な問診と指導を行うことで、症状の悪化を防ぐことができる。

また、患者に対してデジタルデバイスとの適切な付き合い方を伝え、休憩の取り方や姿勢改善を指導することで、視覚機能の低下を未然に防ぐことも可能である。手技療法や鍼灸、運動療法による筋緊張の緩和は、すでに症状が現れている患者の早期改善に直接貢献する。

健康に携わる私たちとして、視覚機能の低下という現代的な健康課題に対して、あなたならどういった形でサポートできるだろうか?

日々の臨床の中で、患者のデジタルデバイス使用状況に目を向け、姿勢や筋緊張の改善を図り、必要に応じて専門医への受診を勧める。そして何より、患者自身が自分の目の健康を意識し、セルフケアを実践できるよう支援する。

一人ひとりの小さな気づきと行動が、視覚機能の低下を未然に防ぎ、早期改善へとつながっていく。それが、デジタル時代を生きる人々の健康を守る、私たち医療従事者の新たな使命の一つとも言えるであろう。


参考情報


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著者:ミラウェルの中の人
mirawell メディアディレクター

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ミラウェルのメディアディレクター
これまで、約130を超えるセミナーコンテンツの
プロデュース/制作/集客/ディレクションを担当。

<保有資格>
・柔道整復師
・NSCA-CPT
・JADP認定スポーツメンタルトレーナー

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