はじめに
2023年度から本格的に始まった「部活動の地域移行(地域展開)」は、日本のスポーツ環境を根本から変える大改革である。スポーツ庁は、少子化の進展と教師の働き方改革という二つの課題に対応するため、休日の部活動を学校単位から地域単位の取り組みへと段階的に移行させる方針を打ち出した。
この改革は、柔道整復師、鍼灸師、理学療法士、スポーツトレーナーといった医療系国家資格者にとって、大きなチャンスでもある。身体やパフォーマンスを日頃からサポートしている私たちの専門性が、これまで以上に求められる時代が到来しているのだ。
部活動の地域化の背景と現状
少子化がもたらす部活動の危機
スポーツ庁「部活動改革ポータルサイト」によれば、急激な少子化の進展により、従来のような学校単位での部活動運営が困難になっている。千葉市の事例では、令和5年度の中学生は22,374人で、10年前と比較して2,184人減少、ピーク時の昭和61年度(45,260人)と比べると約半減している。
この結果、学校によって設置できる部活動に大きな格差が生じている。例えば野球部は市内54校中52校に設置されている一方で、柔道部のある学校はわずか6校のみという現実がある。
教師の働き方改革の必要性
部活動の顧問は「必ずしも教師が担う必要のない業務」と位置づけられているにもかかわらず、多くの教師が専門性や意思に関わらず顧問を務めてきた。日本スポーツ協会の調査では、休日の運動部活動が地域移行された場合に「自身が指導したい」と回答した教員はわずか26.1%にとどまっており、現場教員の負担感が浮き彫りになっている。
改革の方向性と目標
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改革推進期間 | 令和5年度〜令和7年度(2023〜2025年) |
| 改革実行期間 | 令和8年度〜令和13年度(2026〜2031年) |
| 目標 | 次期改革期間内に、原則すべての学校部活動において地域展開の実現 |
| 主な変更 | 休日の部活動を学校の職務ではなく、地域の活動として地域人材が担う |
アメリカの学生スポーツにおける身体サポート体制
中学・高校レベルから整備されるアスレティックトレーナー
アメリカでは、プロスポーツだけでなく、中学校や高校レベルのスポーツ現場でもアスレティックトレーナー(AT)が活躍している。笹川スポーツ財団の調査によれば、小学校や中学校においても2,000人以上のATが専門知識を活かして活動しており、子どもたちのスポーツ参加を競技的側面だけでなく、安全面からもサポートする制度が整っている。
NATA(全米アスレティックトレーナー協会)認定のATは、アメリカ医学会によって準医療従事者として認められた国家資格であり、アメリカ国内で働くスポーツトレーナーの約95%以上がこの資格を保持している。
ATの具体的な役割
アメリカのATは、以下のような包括的なサポートを提供する:
- 傷害・疾病の予防と健康の保護
- 臨床評価と診断
- 応急/救急処置(特に脳震盪への対応はシビアに捉えられている)
- リハビリテーションの指導
- チームの医療面の管理
- コンディショニングとパフォーマンス向上
充実した教育システム
NATA認定資格を取得するには、CAATE(アスレティックトレーニング教育認定委員会)公認の大学院でアスレティックトレーニングの修士課程を修了し、卒業までに700〜800時間の実地研修を行う必要がある。カリキュラムでは一般医学を深く学び、スポーツ現場における危機管理計画に関する知識も義務付けられている。
部活動の地域化がもたらす新たな需要
地域で求められる専門人材
部活動が学校から地域へ移行することで、指導者だけでなく、選手の安全管理や健康サポートを担う専門家の需要が急増する。スポーツ庁の地域運動部活動推進事業では、地域人材の確保が重要な課題として位置づけられている。
医療系国家資格者の強み
柔道整復師、鍼灸師、理学療法士は、すでに国家資格を持ち、身体の構造や機能、傷害予防、リハビリテーションに関する専門知識を有している。この強みを活かせば、地域スポーツ活動において以下のような貢献が可能である:
- スポーツ傷害の予防と早期発見
- 応急処置と適切な医療機関への受診勧奨
- リハビリテーションプログラムの立案・実施
- 成長期特有の身体的課題への対応
- パフォーマンス向上のためのコンディショニング指導
今、身につけるべきスキルと知識
スポーツ医学の専門知識の深化
地域スポーツで活躍するためには、臨床経験に加えて、スポーツ医学の専門知識を深める必要がある。特に以下の分野が重要となる:
- スポーツ傷害の評価と対応:各競技特有の傷害パターンの理解
- 成長期のスポーツ医学:骨端線損傷、オスグッド病、シーバー病などへの対応
- 脳震盪の評価と管理:アメリカでは厳格な判断基準が設けられている
- 栄養学と水分補給:パフォーマンス向上と熱中症予防
- メンタルヘルス:スポーツ心理学の基礎知識
コミュニケーションスキルと多職種連携
地域スポーツでは、選手、保護者、指導者、医師、学校関係者など、多様なステークホルダーと連携する必要がある。そのため、専門知識を平易な言葉で説明する能力や、チームとして機能するためのコミュニケーションスキルが不可欠である。
組織運営とマネジメント能力
地域クラブ活動では、単なる技術提供だけでなく、活動の企画・運営にも関わる可能性がある。予算管理、安全管理計画の策定、保険対応など、マネジメント能力も求められる。
おわりに:社会的動向を先読みし、専門家としての価値を高める
部活動の地域化は、単なる学校教育の枠組みの変更ではない。日本のスポーツ文化そのものを変革し、地域全体で子どもたちのスポーツ環境を支える新しい仕組みの構築である。
この大きな変革の中で、身体やパフォーマンスを日頃からサポートしている私たち医療系国家資格者の存在が非常に重要になる。アメリカでは中学・高校レベルから2,000人以上のアスレティックトレーナーが活躍し、子どもたちのスポーツ活動を安全面から支えている。日本でも同様の専門家が求められる時代が、すぐそこまで来ている。
今、私たちに必要なのは、この社会的な流れを先読みし、必要とされるスキルや知識を身につけておくことである。スポーツ医学の専門知識、成長期特有の課題への対応、脳震盪などの緊急時対応、多職種連携のためのコミュニケーション能力、組織運営のマネジメント能力—これらを今から準備することで、地域スポーツの中核を担う専門家として活躍できる。
専門家として、あなた自身は何を身につけておくべきなのか?どのようなスキルが生きてくるのか?
アメリカのアスレティックトレーナーが700〜800時間の実地研修と厳格な試験を経て専門家として認められているように、私たちも継続的な学習と実践を通じて、専門性を高め続ける必要がある。地域の子どもたちの健康と安全を守り、スポーツを通じた成長を支援する—そのために、今この瞬間から行動を始めるべきである。
部活動の地域化という大きな波は、私たち医療系国家資格者にとって、社会に貢献し、専門性を発揮する絶好の機会である。この機会を活かすか見逃すかは、今の準備と行動にかかっている。
参考情報
- スポーツ庁「新たなスポーツ環境の構築に向けて~子どもたちの未来を見据えた部活動改革」
- 文部科学省「部活動改革ポータルサイト」
- スポーツ庁「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」
- 笹川スポーツ財団「アメリカにおけるアスレティックトレーナー(AT)の現状」
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著者:ミラウェルの中の人
mirawell メディアディレクター
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ミラウェルのメディアディレクター
これまで、約130を超えるセミナーコンテンツの
プロデュース/制作/集客/ディレクションを担当。
<保有資格>
・柔道整復師
・NSCA-CPT
・JADP認定スポーツメンタルトレーナー
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